透子はタルトの最後の塊を口に入れた。
勘違いで連れてこられたとしても、この至極のケーキを2つも食べられてよかったと、口に残る優しい甘さにうっとりした。

「右の膝に傷があるだろ?」
「え?」

まるで占いが的中したように透子はたじろいだ。

「ある……もう薄れてきてるけど」

龍道コーチがにやりと笑った。

「顎にほくろがあって右の膝に傷がある水之透子。湯島天神の参道に続く階段で、俺を助けて代わりに階段を転げ落ちた女。だよね?」

透子は1度しか湯島天神に行ったことがない。
それは確かに23歳のときで、そこで遭遇したアクシデントなら覚えている。

「まさか、あの時の?」
「そう、まさかの貧血起こして階段でよろけた高校生だ」
「うそ!」
「だからいちいち嘘ついてどうすんだよ」

乱暴な口調とは裏腹に、龍道コーチは嬉しそうな笑顔を向けた。