「もしかして、田淵君のこと?」
彼が早くも龍道コーチにモーションをかけているのだろうか。
それくらいしか思いつなかった。

「田淵くん? ああ、あの、上手いやつね。おまけにカッコよくて目立つやつ。早くも彼に人気をさらわれて焦っているコーチがいるんだけど、彼、君の知り合い?」
「同僚。私がドラゴンウエイの話をしたら、やりたくなったみたい」

ゲイなのでイケメンコーチにつられて入会しました、とは言わなかった。

「田淵君は関係ない」
「じゃあなに?」
「俺のこと、覚えてない?」

透子は龍道コーチの顔を正面からじっと見つめた。

「ない」
「俺たち、昔出会ってるんだけど」
「そんなわけないと思う」

いくら記憶力の悪い透子でも、さすがに龍道コーチほどインパクトの強い男に会ったことがあれば覚えているはずだ。
龍道コーチが覚えていて自分が忘れているはずはない。
その逆なら十分にあり得ると思うけど。