「あ」
「ほらな」
勝ち誇ったように唇の端をあげ、龍道コーチは残り半分のタルトを口に放り込んだ。

透子がばらばらになったタルトをしょんぼり見下ろしていると、「俺しかいないんだから手で食べればいいじゃん」と言うので、その通りにした。
形が崩れても美味しいものは美味しい。思わずにっこり笑った。

「じゃあ質問に答えてやる。まずその一。マヤはとても近しい間柄だけど付き合っているわけではない。そういう間柄にはなれない」
「訳アリなんですね。忍ぶ恋、的な。大丈夫、誰にも言いません」
透子はまっすぐ龍道コーチの目を見て、大きく頷いた。

いやそういうわけじゃ……という龍道コーチの声を遮り、透子はその二の答えを促した。

「ウィッグはマヤのだよ。車内にあったから金子さんに悟られないようとっさに被っただけ。女装癖なんてあるわけないだろ、バカじゃねえの」
「でも明日には『龍道コーチは女装癖がある』って広まってるかもね」
テニスウエアのシャツにハーフパンツ、金髪ボブの妙な姿で必死に運転する龍道コーチを思い出して、透子はにんまりした。

「俺だってばれたかな」
「さあ。それよりマヤさんて本当はどんな髪型なの?」
龍道コーチに女装癖があるという噂が広がろうがなかろうが、透子にはどうでもよいことだった。