「そもそもなんでマヤさんの車を乗って帰るついでに私を送ってくれるわけ? 私に特別な用事とかあるわけないよね。ついでに聞くけどマヤさんとコーチは付き合ってるの? って、これはどうでもいいけど。それからついでのついでに聞くけどいつもウィッグで変装してるの?」

そんなたくさんの質問に答えるにはもっと糖分が必要だと言って、龍道コーチは絹子さーんと叫びながら部屋を出ていき、今度は紫のブルーベリーや赤いラズベリーが美しくちりばめられたタルトを2つ運んで戻ってきた。

食べるのがもったいないほど愛らしいタルトを透子の前に1つ置くと、龍道コーチはもうひとつを手づかみで半分ほど口に入れてしまった。

「ああ、そんな乱暴に食べてもったいない」
「だってこれ、ちっちゃいじゃん」
「そういう問題じゃなくて。コーチって見かけと育ちによらずガサツよね」
「じゃあフォークで切って上品に食べてみろよ」

ほれほれ、早くやってみろと顎で指図するので、透子はお皿に添えられた瀟洒な銀のケーキフォークを果実をつぶさないよう、注意深くそっと差し込んだ。
しかし下の焼き菓子部分が意外と固く、ぐっと力を入れるとばらばらと崩れてしまった。
紫や赤のベリーたちも皿に零れ落ちた。