「おい、座れよ」
振り返ると龍道コーチはストローを使わずアイスコーヒーを牛乳みたいにごくごく飲んでいて、透子が龍道コーチの正面に座ったときにはもうほとんど残っていなかった。

「コーチってすごいお坊ちゃまだったのね。びっくりだわ。どんな仕事をしているのか聞いていい?」

モンブランにフォークを差したまま動きを止めて、龍道コーチは透子をまじまじと見た。
そして「やっぱり鈍いな」と言って、モンブランを半分、惜しげもなく口に放り込んだ。

「鈍い?」
「俺の苗字は?」
「龍道」
「英語にすると?」
「ドラゴン……ロード?」
「ロードじゃないほう」
「えーっと、ウエイ?」
「てことは?」
「ドラゴンウエイ。え、ドラゴンウエイ? ドラゴンウエイってコーチが経営しているの? 」
「正しくは親父だけど。わりとみんな知ってるんだけどな」

残り半分のモンブランを龍道コーチは口に突っ込んだ。

ドラゴンウエイはテニススクールだけではなく、全国にフィットネスクラブやゴルフクラブなどを運営するほか、スポーツウエアや健康食品販売など多角的に事業展開している大企業だ。