「まさか俺が君を家に連れ込んで襲うとか思った? 俺が君を? 結構自意識過剰なんだね」
龍道コーチに笑われて透子は顔が熱くなった。

そりゃこんな20代のイケメンが、30代のきれいでもグラマーでもおしゃれでもない透子をわざわざ部屋に呼んで押し倒したいわけがないよね、と自分でも素直に認め、恥ずかしさで腹がたってきた。

「あのね、理由も言わずに拉致してこんなとこまで連れてくるからでしょ。変なウィッグまでかぶっちゃって。あ、今はレッスン中じゃないし私の方が年上だから、ため口でいいよね」

私、帰るからと一歩踏み出したものの、駐車場のシャッターは閉まっているし、どこから外に出たらいいのかわからず、透子はその一歩で立ち止まった。

龍道コーチは透子の抗議を無視して「歩くの面倒だからこれで行こう。適当なの選んで」と、駐車場の端に6台置かれた自転車を顎で指し、自分はタイヤが細くて大きいグリーンのサイクリング車にまたがってさっさと走りだした。
透子は慌てて籠付きの赤い自転車を選んでまたがり、龍道コーチの後ろを追った。

ガレージを出ると、公園のような広い敷地が広がっていた。車一台が通れるくらいの小道の脇には大きな樹が茂っていて、その合間にテニスコートやプール、バスケのコートが見える。