「すごいね彼女、探偵になれそうだ」田淵が無邪気に喜ぶ。

「別に期限なんて関係ないんだ。透子さんと付き合って、もしこの先水之さんが俺のことを本気で好きになってくれて、お互いずっと一緒にいたいと思ったら、ずっと一緒。それって普通のことだろ」
「じゃあ見合いを逃れるために付き合ってくれと頼んだのは?」
「そういえばとりあえず付き合ってくれるだろうと思ったから」

照れ臭そうに答える龍道コーチに田淵は次の質問をぶつけた。

「でも跡取りでしょ。そう簡単に結婚できないんじゃないの? 家柄とか条件があるでしょ」
「俺が継ぐとは限らない。うちには女傑がいるからな。それに好きな人と一緒にいられないくらいなら俺は家を出る」

次は自分が透子に交際を申し込もうと思っていた田淵だったが、その機会はなくなった。
透子の心はすでに龍道コーチの心に溶けていて、龍道コーチの気持ちも透子にあるとわかった今、もう田淵が入り込むスキはない。
思わぬ龍道コーチからの告白に驚き、唇を薄く開けたままぼんやりと龍道コーチを見つめている透子の姿に、田淵は寂しさよりもすっきりとした気持ちになった。

――透子さんには泣いてほしくない。透子さんの涙はもう見たくない――
と田淵がほっとしたとたん、透子の頬をまた涙が伝った。
もちろん悲しいわけではなく嬉しい涙だ。