「俺の彼女になにしてんの?」

いつ来たのか、ドラゴンのロゴが入った自社ブランドのTシャツとジョギングパンツをはいた龍道コーチが立っていた。

「え!」

透子と田淵は驚きの声を同時に発した。

「なんでいるの? まだ出張中よね」

スツールを半身回転させて透子は龍道コーチを見上げた。

「さっき帰国してスクールに行ってみたら、君たちがたった今退会したって聞いたんだよ」
「どうしてここにいるってわかったの?」
「彼女のことはたいてい推測できるものだろ」

田淵は立ち上がって得意げに答える龍道コーチに向き合い、「でも1か月の約束は終了したわけだよね」と言うと、龍道コーチは「まだだよ」としらっと答える。

出張中だった1週間分がまだ残っているという計算かと透子も田淵も考えたが、そうではなかった。

「一緒にいる時間が1か月ということだから、これまでの時間をざっと計算すると、まだ24時間だ。ということは1日しかたっていないからまだ30日間残っている」

そんな計算の仕方があるか。
透子と田淵はきょとんとし、しばし顔を見合わせる。

「そういう約束だったの?」

田淵に尋ねられ、透子が「いや――」と返事に困って首をかしげると「そうだよ、そういう約束だよ」と龍道コーチが子供のようにむくれる。
明らかに無理がある。

長身のイケメン男2人が立ったままなにやらもめていそうな様子は声を荒げていなくても人目を引く。周囲の客がビールを口に運ぶついでにちらちらと興味深げにこちらをうかがっている。