それは2年前の梅雨入り前だった。


5月下旬のさわやかな日。


もう少しするとじめじめとした過ごしにくい天候になるなんて嘘みたいな日だった。


「お父さん、行って来ます!」


朝の7時45分。


娘のアキナは赤いランドセルを背負い、いつも通り家を出た。


通学班の集合場所は丘を下りてすぐの場所にある。


「そろそろ出るか」


アキナが家を出て10分ほどしたとき、私もカバンを持って玄関へ向かった。


「行ってらっしゃい。今日も頑張ってね」


専業主婦の妻が玄関までお見送りをしてくれるのもいつもの光景だった。


「行ってきます」


と声をかけて庭に出て車に乗り込む。


ラジオをニュース番組にあわせて車を発進させた。


アキナが通う小学校と私が勤務している小学校は別々だった。


それは単純に学区の問題があったからだが、娘が同じ学校にいるとついえこひいきしてしまいそうなので、ちょうどいい距離感だった。