と、その時だった。


突然椅子が床にこすれる音が響いたかと思うと、啓治が大またに先生へ近づいていくのが見えた。


「おい、お前!」


先生を指差して声を上げる啓治。


僕は咄嗟に立ち上がり、啓治の後を追いかけていた。


「なんですか宇田君。発言があるなら挙手をしなさい」


先生は相変わらず力のない目で言う。


「お前なぁ!!」


拳を握り締めて先生に近づいていく啓治の腕を強く掴んで引き止めた。


「やめろよ!」


僕の声に啓治は驚いて振り返る。


「なんだよ愛。なんで止めるんだよ」


啓治はあからさまに同様して目を泳がせている。


その顔は怒りで真っ赤に染まっている。


「今はダメだ。今度は僕たちが狙われる!」


僕は啓治にだけ聞こえる小声で言った。


「でもよぉ……」


「先生に誘拐されたら、みんなを助けることができなくなるんだぞ」


そう言うと、ようやく啓治は拳を開いた。


チッと軽く舌打ちをする。


「先生ごめんなさい。なんでもないので、続けてください」


僕はそう言うと啓治を連れて席へと戻ったのだった。