さっき感じた安堵感が緊張に変わり、梨乃が青ざめていった。


先生は梨乃にナイフをつきつけたまま、大きくふすまをあけた。


その向こうは廊下になっていて、壁は全部窓になっている。


カーテンのひかれていない窓から庭を見ると、沢山の警察官が到着しているのが見えた。


先生が人質を取っているのを見て、警官隊が拳銃を構える。


先生は窓を開けると「こいつを殺す!」と、怒鳴り声を上げた。


それは学校で見たことのある先生とはまるで別人だった。


凶悪な犯罪者が乗り移ってしまったかのように見える。


「その子を離しなさい!」


警官隊の1人が叫ぶ。


しかし、先生の耳には届かなかった。


梨乃の体がガタガタと小刻みに震えているのが見えた。


僕はグッと奥歯をかみ締める。


僕はいつでも梨乃に助けられてきた。


今度は僕が助ける番だと思ってここにきた。


だから……だから!!


僕は先生が投げ捨てたゴルフクラブを取りに走る。


少女たちがハッと息を飲んで邪魔をしにきたけれど、その体を押しのけて走った。


「梨乃を放せ!」


そう叫び、ゴルフクラブを両手で握り締め、大きく持ち上げた。


先生が振りむく。


僕はゴルフクラブを振り下ろす。


すべてがスローモーションのようだった。