「先生……? なにを言っているんだアキナ。私はお父さんだぞ」


しかし、梨乃は左右に首を振った。


そしてポケットからスマホを取り出したのだ。


梨乃はまた洗脳が戻ってしまったのかと思っていたが、そうではなかったのだ。


先生の味方のフリをして、タイミングを見計らっていたのだ。


「違います。先生は、学校の先生です」


「……っ!」


梨乃の言葉に先生は苦痛に顔をゆがめた。


「なんでだ! お前のこともしっかり洗脳したはずだ!」


「先生。洗脳はもともと個人差があるんです。あれだけ本を読んで勉強していたのだから、わかるはずですよね?」


梨乃は真正面から先生を見つめて言った。


パトカーが庭に停車する音が聞こえてくる。


ほぼ同時に何人もの警察官が車から降りてくる音もした。


もう、安心だ。


安堵感から全身の力が抜けそうになり、慌てて両足を踏ん張った。


先生はまだナイフを持っている。


油断しちゃいけない。


「もう観念してください」



梨乃が先生の手に触れる。


次の瞬間、先生は梨乃の体を引き寄せてその首にナイフを突きつけていたのだ。


一瞬にして部屋の温度が下がっていく。