「アキナ。どうしたんだい?」


先生が呪文のような声で梨乃に話しかける。


一瞬梨乃の体がグラリと揺れた。


「違う……あたしは梨乃」


梨乃が呟く声がひどく弱弱しい。


「そうだよ梨乃、今のうちに逃げるんだよ!」


僕は必死に叫ぶ。


しかし、梨乃はまるでロープで絡めとられるようにして、先生に近づいていくのだ。


先生が両手を広げて梨乃を抱きしめる。


「なにしてんだ梨乃!!」


「言っただろう? ここにいるのはみんな私の娘だ」


先生は梨乃の髪を優しくなでる。


梨乃はされるがままだ。


「さぁアキナ。ナイフを渡しなさい」


「はい」


再び洗脳状態にかかった梨乃がぼんやりとした瞳で先生を見つめる。


もうダメだ。


次はもうない。


絶望が押し寄せてきて涙となってあふれ出した。


せっかくここまで来たのに。


やっと梨乃を見つけることができたのに……!