その両手が私の頬に触れるその瞬間まで、一歩たりとも動けなかった。


「結弦なんて忘れて、僕にしなよ」


影野くんがそう言った途端、2人の距離はゼロになった。


「ん…っ…」


ほんの一瞬の出来事。


「…霧山さんは、キスされるとそんな声出すんだ。かーわい」


「っ…なんで、こんなこと…っ?」


何も抵抗出来なかった自分への後悔、悔しさと悲しさが一気に押し寄せてくる。


っ…何これ、ほんとにこれは現実なの?


夢であって欲しいと強く願っても、目の前にいる影野くんの温度とほんのり濡れた唇が、嫌でも現実であると思わされる。