路地裏に残された、私と祐樹先輩。

祐樹先輩の瞳が私の瞳をとらえる。

怪我していないほうの手で、私の頬に触れる祐樹先輩。



「大丈夫か?」

「大丈夫かって、祐樹先輩のほうが大丈夫じゃないですか!」



そう言っている間にも、血は止まってくれない。



「傷は深くないから大丈夫だ」

「でも……っ」



祐樹先輩は痛みをこらえているのか。

少し顔をゆがめている。

なのに、私の心配なんかしてくれて。



「ごめんなさい……」



そう呟いた瞬間、私は祐樹先輩に引き寄せられた。


大丈夫だ。


そう言うかのように、祐樹先輩は私の背中を撫でてくれる。

その優しさに、私は再び涙がこぼれた。



「奈々」



祐樹先輩の声が耳もとで聞こえる。



「俺から離れるんじゃねぇぞ」



ぎゅっと抱きしめられる。

こんな状況なのに、心臓が飛び跳ねた。


言われたことのない言葉。

“俺から離れるんじゃねぇぞ”

その言葉が、頭の中でリピート再生される。