「祐樹先輩! 危ないっ!」



そう叫んだときには、男はナイフをかざしていて。

ナイフは祐樹先輩の腕をかすめた。

祐樹先輩が着ているTシャツが赤くにじむ。



「祐樹先輩っ!」



思わず祐樹先輩に駆け寄る。

祐樹先輩のTシャツに赤い染みがどんどん広がっていく。



「早く! 止血しなくちゃ!」



私が叫びに近い声を上げると、後ろでカラン、と音がした。

振り返れば、男はナイフを地面に落として震えていた。



「刺すつもりはなかった……っ」



そう言って、カタカタと体を震わせている。



「刺すつもりはないって! ナイフを持っていること自体……っ!」



男に言い返す私を止めたのは祐樹先輩だった。

顔を歪ませながら。

それでも、目には強さが宿っていて。



「ナイフを持つときは覚悟を決めたときだ。中途半端に刃物を持つんじゃねぇ」

「っ、」



祐樹先輩の言葉には重みがあった。

私は思わず、祐樹先輩をぎゅっと抱きしめた。



「二度とこんなマネするんじゃねぇぞ」



その言葉は合図かのように、男たちは這うように逃げていった。