が、

突然ヒロイン(葵)が教室から飛び出して私の前に現れた。




そして私を見るなり

「ち、千景さん!」

と、言って前から突撃してきた。

「うぇっ!?」

なんだこれっ

タックル、ではなく・・・ヒロイン(葵)にだ、抱きしめられてんぞ私!

ひぇー!

柑橘系のいい香りなんですが!!

陶器のようにつやつやな肌は柔らかく温かい。

思わずドキッとしてしまった。

ヒロイン(葵)はススッと私の背中に隠れる。

「おい、逃げるな葵!!って、なんだ千景も一緒か。そこをどけ、後ろに用がある」

と、晴人も登場してきた。

しゃーないから退いてあげようとするも、動けない。

あれ、いつのまにか私の肩に腕を回してない?

後ろから抱きしめられてる、だと!?

抜け出そうと、もがくがびくともしない。

こ、こいつ、力強い。

さてはおまえ、ヒロイン(葵)じゃないな!

そうだ、こいつ男(葵くん)だった!?

「あ、葵君?」

私は退きたいのだよ、葵くーん!!

ハジバシッと腕を叩くけど首を横に振られる。

やめい!!

私と葵君の身長差が変わらないせいで、さらさらな髪が首にあってくすぐったい。

「ごめんなさい、千景さん」

といって、離れる気配がない。

その潤んだ瞳で見るんじゃないよ。

「なにをしてる、こっちにこい葵。まだ話は終わってない」

晴人は乱暴に葵君を掴むと、私から引き剥がそうとするがなかなか離れない。

いたたたたたっ、引っ張るなや、このやろ。

「晴人、やめてっ」

と、葵君は晴人の手を大きく振り解いて距離を取った。(私も一緒に)

晴人、避けられてんじゃん笑。

は、ざまぁー



ダン!

「!?」

ひぇ

イケメンの壁ドンは迫力が半端なかった。

前は晴人で後ろは葵君。

なるほど、これがイケメンサンドウィッチか。

と、馬鹿なことを考えるが、本当にこれはまずいと思う。

晴人は私たちを覆いかぶさるように両手を壁に当て、逃げ道を塞ぐ。

葵君と私は顔を上げて、彼を見た。

あれ?このままでいいの?

「なぁ、逃げるなよ。それとも追いかけられたくてわざとしてるのか?」

葵君は晴人を見ながらキュッと私を抱きしめる。

いや葵君、私はいらないよね。

「……逃げたのは謝ります。だけど無理です」

と、葵くんは小さな声で言った。

あれ、私がいることをお忘れですか?

「理由は?」

このまま続けるのね、大人しくしてまーす。

「………それは」

ちらっと葵くんがこっちを見る。いや、私を見るな。

「こいつは婚約者だが、ただの幼馴染だ。婚約は親同士が勝手に決めたことだ拘束力はない」

それいっちゃうんだね、晴人。

え、この婚約に拘束力なかったの!?

驚いたのは私だけでなく葵君も一緒だった。

「もしかして気にしてたのか!」

こくっ、と葵君は気まずそうに頷いてから

「婚約者がいるし、それでなくても俺と釣り合わないって思ってたから」

と寂しそうに言った。

その言葉を聞いたからか、晴人は少し嬉しそうな顔をする。

「気にするな、そんなのどうでもいい。なにを言われようともお前は俺の側にいればいい。だから葵の本心を聞かせろよ」

「本心………?」

葵君はまじまじと晴人を見る。

お、葵君。やっと本心を言うんだなぁー。

盛り上がってるところ悪いんだけど、なんでこんな特等席で見させられてんの私?

「教えろよ、葵」

と、晴人は優しい声で尋ねながら葵君の頬を指で優しく撫でる。

え、まって。晴人の熱に浮かされた顔初めて見たんだけど。

お、おぉ、視線が絡んでるってこれか。

おーい、私の存在忘れてるな。
そもそも認識されてない?
2人の世界にいかないでくれないかなぁ!!

「晴人、俺は………言えない」

私をぎゅーっと抱きしめる。さっきから抱き枕とか人形と勘違いしてるよな、こいつ。

「焦らすなよ、それなら強引に言わせたっていいんだからな」

ずいっと一歩近づく。晴人の長い足が前に出て葵君と私の足の下に入り込む。余計に動けないのだが!

「な、まって近いっ」

と言ったのは私ではない。

「言わないと、わかるよな?」

あ、まずいよ葵君。これまじトーンだよ!



「っ、わかった。お、俺は………千景さんが、その………好きです!!」

その声が廊下を突き抜け、学校中に響き渡った気がした。




「「は?」」

と、晴人と私の声が重なる。

「だから、2人を応援できない。婚約者同士で親密な2人の近くにいるのが辛かった。それで、晴人と一緒にいられないなんて言ったけど・・・千景さんとただの幼馴染みなら俺にもチャンスがあるよね?」

真っ赤な顔で晴人を見つめる葵君。

ポケーっと放心状態の晴人。

うわぁ、居た堪れない。

できることなら今すぐ晴人をそっとしてあげたい。

あれ、そんなことより・・・

なんて言った、この子。


お前、晴人のこと好きじゃなかったのかよ!?
 


「あの、千景さん」

「へ?」

未だに後ろから抱きしめられたままの状況で彼の唇が耳元に近づく。

ゾクゾクっと全身に痺れる感覚。

これは良くない予感がする。

「本気だから。だから、その…………。俺のこと考えて、ね?」

と、甘く囁かれた。

「は、はい」

と、いつのまにか言葉にしていた。

そして彼は小悪魔のようににっこりと笑う。

やばいやつに捕まってしまったっ。

な、

なんだこれぇ!!!!

そういうことは、聞いてない!


悪役令嬢?✖️ヒロイン?