次の約束もまた、同じ金曜の夜だった。

「この時間帯じゃないと会えないんですか?」

そう聞いたら、彼は全くブレない同一の笑みを優しく返す。

「もっと僕に会いたくなった?」

いつものコーヒーショップまで並んで歩きながら、私の手を握る。

「どうしてそういうふうに思った? そのターニングポイントはどこ?」

多分それは、初めて会った時からの一目惚れなんだけど。

それをこのヒトに説明しても分からないような気がする。

「う~ん。もっと会いたくなったっていうか、あなたの違う一面を見てみたくなったっていう感じかな。私の知らないあなたをもっと知りたいっていう、そんな気持ち」

「なるほどね」

彼は私を見下ろした。立ち止まり向かい合う。

「たとえばそれはどういうところ? 生活面とか、環境、性格? それとも意外性を求めてる?」

金曜夜の繁華街は人通りも多くて、その混雑した人の流れの中でも彼は周囲の様子を全く気にしていない。

「僕個人のキャラクターと言っても、その全てを知ることが出来ると思ってる? 本当に知りたい? 君と僕はまだ数回しか会っていないのに?」

通りの真ん中で立ち止まる彼に、通行人の肩がぶつかった。

「正解はノーだね。君は僕の……」

往来の真ん中で、彼は静かに首を横に振る。

「いや、何でもない」

「あなたは私の何を知っているの?」

非の打ち所のない完璧な作りの顔と向き合う。

「私はあなたを知らない。あなたも私を知らない。あなたは私の何を知りたいと思ってるの?」

立ちすくむ彼の肩に、大柄の男性がぶつかった。

「邪魔だ。痴話げんかならよそでやれ」

彼はそれを無視して腕を組む。

「そうか。君も同じことを聞くんだね」

「おい!」

ぶつかった男は、かなり酒に酔っているようだ。

「いい反応だ」

ルイは私に微笑む。男の手が彼の胸ぐらをつかんだ。

それでもルイの視線はまっすぐにこっちを見ている。

「やはり君に会えてよかった」

「お前、俺の話しを聞いてんのか!」

殴りかかろうとした男の手を、ルイはパッとつかむ。

「僕も君の気持ちが知りたい」

怒りをむき出しにした男は、彼の胸ぐらをつかみ強く引いた。

服が引きちぎられるほどの力でも、ルイの体はピクリとも動かない。

ようやく美しい顔が男へ視線を向けた。

「すまない。今この人と大切な話をしているんだ。君は遠慮してくれないか」

その脇腹に拳がめり込む。

それでも彼は顔色一つ変えなかった。

にっこりと笑みを返す。

「ごめんなさい。僕たちの方が邪魔だったかな。真緒、行こう」

「ルイ、服が!」

「あぁ、いいんだ」

彼の白い手が、私の手をやさしくつかむ。

「じゃあ、失礼するよ」

爽やかな笑みを男に投げかけ、ルイは私の手を引き歩き出す。

「ねぇ、どこに行くの?」

「どこへでも。君の行きたいところなら、僕はどこにだって連れて行ってあげる」

破れた服を胸の前で押さえている。

私は彼の手を引いた。

「じゃあ服屋さんに行こう。新しいのを買いに行かなくちゃ」

閉店間際の店に駆け込む。

破れたのと同じような白いシャツを選んだ。

店員に事情を話し、フィッティングルームに入る。

「着替えを手伝ってはくれないの?」

そうやっていたずらっぽく笑った彼の言葉は、もちろん冗談だと分かっていた。

彼と共にその狭い空間に押し入る。