すぐに連絡がくるものと思っていたのに、彼からのやや強引な次のお誘いが入ったのは、ぴったり一週間が経った同じ曜日の同じ時間だった。

「同じ曜日の同じ時間を、僕にください」

たったそれだけのメッセージに、心がときめく。

それはあの容姿だけのせい?

「僕のどこが好き?」

金曜夜のビジネス街の、どこにでもあるコーヒーショップ。

たった二度目の逢瀬で、トータル三時間もない中で、そんなことを聞かれても答えようがない。

「えぇっとですねぇ、好きっていうか……」

彼はにこにこと上機嫌な笑みを浮かべている。

「私の方が声をかけられたのに、その聞き方はおかしくないですか?」

「僕が君を好きな理由?」

彼は湯気の立つカップの前で、優雅に頬杖をついている。

「それはね、遺伝子に組み込まれたプログラム」

なんだそれ。

私はコホンと一つ咳払いをしてから、彼を見上げる。

「それでは返事になっていません」

「好きなんだ。君が。それだけじゃダメ?」

ひんやりとした白い手が、私の手に重なった。

彼は視線を落としながらそっと顔を背ける。

「それを君が僕に教えてくれないと、僕はどうしようもないんだ」

憂いに満ちたギリシャ彫刻の横顔に、どうして逆らうことが出来るだろうか。

「分かりました。じゃあとりあえず、お友達から。これから一緒にご飯食べに行きません?」

連れて入った馴染みのレストランで、彼はやっぱり何にも口にしなかった。

「食べないんですか?」

「食事制限があって」

「病気?」

彼は首を横に振る。

「あ、やっぱりモデルさんとかなんですか? 体型維持とか」

彼はにっこりと微笑む。

「君の食べている姿を見るのは、新鮮でとてもおもしろい」

彼の手に取ったフォークは、この一瞬を彼に選ばれるためだけにこの世に存在していたかのようだ。

それに突き刺されたきゅうりの欠片も、きっとその光栄に身を震わせているだろう。

「はい」

目の前の悦びにあふれたキュウリを見下ろす。

口を開いたら差し出されたので、タイミングをみはからって口を閉じる。

抜き取ったそれを、彼は自分の口に咥えた。

「ふふ、ありがとう」

フォークを咥えたままうれしそうにしている姿に、こっちが恥ずかしくなる。

店を出たとたん、彼は私の手を握った。

「ねぇ、キスしたい」

腕を引かれる。

白い手が頬に触れ、唇が重なった。

ぬるりと入り込んだ彼の舌が私をもてあそぶ。

もう一度軽く触れてからそこを離れた。

「今夜はどこまで送っていけばいい?」

背に腕がまわる。

彼はぎゅっと私を抱きしめる。

「嘘、ゴメン。大事な人だから大切にする」

すぐにほどかれたその手を、彼は軽やかに振った。

「じゃ、またね」