・・・あ、そうだ。
私まだ途中だったんだ。

急遽のレッスンのおかげで
すっかり忘れていた夕飯の準備を思い出した。

「少し待ってて。
 今ご飯の準備するので。」

「ちょっと待って?」

なぜか私を止める然さん。
その表情は、さっきよりも少し引きつっているように見える。

「どう…したの?」

思わず足を止め聞いてみたけど
彼は言いづらそうに口を開く。

「アイツに…」

「ん?

「美南に何か言われた?」

「え…え、えッ?」

思いも寄らない質問に
私はわかりやすいくらい動揺してしまった。

「…やっぱ言われたか」

『はぁ…』と溜め息を吐く然さん。
彼には余計な事を言うつもりがなかっただけに
勘付かれてしまったのは誤算だ。

「彼女は何も間違った事は言ってないよ。
 それどころか現実を教えてもらったから。
 私には良い刺激だったと思う」

あれだけ真っ直ぐな気持ちはハッキリ言えるのって
大事だから。

「刺激って…
 何言われたの。
 場合によっては俺が注意する」

少し怒ったように
真剣な顔をする然さん。