翌日―――

然さんの会社まで
自分の車を運転すること約1時間。

昨日は事態の把握に必死で意識していなかったけど…
毎日の通勤には遠いよ、往復2時間って。

「運転だけで疲れた…
 1日で挫折しそう…」

職員に案内された誰もいない部屋に入り
真ん中に置かれた長テーブルに鞄を置くと
椅子に腰掛けて『引っ越そうかな』とボヤく。

そういえばここって
入り口の向かって正面は鏡張りになっているけど
控え室?


――コンコン

「入るよー」

ノックと共に室内に入ってきたのは
昨日から私の上司になった然さん。

「お、おはようございます」

ビシッと立ち上がって頭を下げてみたけれど
昨日のキスを思い出して顔を上げる事が出来ない。

「おはよ、由凪さん。
 まぁ座ってよ」

当の本人は
まったく気にしている素振りもなく
あいかわらず笑顔のまま。

これが調子狂うんだよ…。

「さて。
 じゃぁまずは契約書とか諸々の
 面倒な手続きを終わらせようか」

私の正面に座るや否や
『さっそく』と数枚の書類をテーブルに並べていく。