「瞳ちゃん、最近、心臓に違和感を覚える回数って増えた?」
「え?そんなことないと思うんだけど…。でも言われてみればそんなこともあるような気がしてきた…。」
「ほんと?うーん…。」
「悪くなってるの?」
「いや、前回のホルター心電図と比べるとちょっと脈拍定待ってないポイントが増えてるんだけど、たまたまなのかそうじゃないのかわからないんだよね。」
瞳の不整脈は主に徐脈である。いきなり脈拍が毎分20回も30回も落ちてしまう。不整脈の中でも割とマイナーな類で、期外収縮なんかよりは重要視されていないが、瞳の場合は不整脈の発生頻度が通常値よりも多く、また基礎疾患である喘息との兼ね合いもあるので定期的に検査・診察が必要になってくる。
「つらいわけではないのね?」
「うん、それは大丈夫だよ。」
「うーん…。じゃあ今機械外しちゃったけどもう3日つけててもらってもいい?」
「え…。」
「念のためだから、そんなに不安そうな顔しないで!」
「そうそう、1日だけだとちょっと正確に判断できなかったりするから、本当にたまたまかもしれないし。」
「はい…。」
うーんと悩んだ顔をしていた琴美がもしかしたら、と切り出した。
「新年度が始まったばかりで瞳ちゃんに少しストレスがかかっているだけかもしれないしね。」
「ストレス?そんなの感じてないと思うんですけど…?」
「うん、瞳ちゃん自身が気づいてなくてもそういう環境の変化が小さなストレスになって、それが少しずつ蓄積しているってこともあるってだけだよ。」
楓がフォローする。
「そうなんだー。じゃああんまり気にしないようにしとくね。」
「うん、それがいいね。じゃあ、今日はこれぐらいにしておこうか。勉強がんばってね!」
「はーい。わかんないことあったら来月楓先生に聞こうかな。」
「ふふふ、高校の内容覚えてるかなー、まあがんばるね。」
「それじゃあまたねー。」
「身体に気をつけてねー!」
「ありがとうございました!」
診察室を出て会計を済ませ、瞳と待ち合わせをしているカフェへと向かった。
楓はあまり気にしなくていいと言ったが、瞳からするとやはり自分の体のことではあるし、しかもそれが心臓ときたらやっぱり少し不安を感じる。再び身体に取り付けられた心電図の機械が余計にそんな気持ちを助長させた。