世界No.1暴走族・天海朧月 下

嘘、だろ……。

疾風さんは、生きてる……!?

七聖
「言えなかった……っ。私だってまだ理解できてないのに、こんなの、言えるわけない」


「……兄ちゃんも、居場所わかんないって?」

こくんっと静かに頷いた七聖。

七聖を見る限り、本当なんだ。

七聖
「何のために、海王に潜入して、白狐と戦うんだろって思って……わかんなくなった」

前にも……こういうことあったな。


「……俺らは、世界一の族になるんだろ。七聖が海王に来てくれたから、俺はお前に出会えたし」

それは、ずっと変わらない。
七聖
「優心……」

ポロッと涙を零した七聖。

七聖
「わ、たし……お兄ちゃんに、会いたい……」

必死に涙を拭う七聖は、強くなんかない。

アイツらは、七聖を強いと言うけど……違う。

本当の七聖は、弱くて、とても脆いんだ。

それを、強気で明るい仮面を被ってるだけ。

……常に、誰かのことを考えて。

俺には……そんな綺麗な心はない。

なくても……。


「……探そう」

七聖
「え……?」
ギュッと七聖を抱きしめた。

なくても、そばにいたい。

七聖がひとりで苦しんでるのなんか嫌だ。

俺に、全部吐き出して欲しい。


「まずは、白狐を倒して俺らがNo.1になろう。そしたらまた世界が広がるし、ケンカする族も多数になる」

七聖
「でも……」


「疾風さんは、七聖と琥太郎に会いに来るよ。絶対に!」

あの人は、よく妹と弟の話をしてた。

俺と同い年だからって。


「だから、俺を頼って。七聖」

七聖
「っ……うん」
七聖は俺を見上げると、安心したのか柔らかい笑顔を浮かべた。

ドキッ……。

やばい、不意打ち笑顔は心臓に来る。

そろそろ……いや、ダメだよな。

まだ付き合って1か月も経ってねぇのに、さすがに早いだろ!

キスだって、触れるだけなのに……!

七聖
「優心?眉間にシワ寄せてどしたの?」

無自覚な上目遣い……。


「べつに……」

七聖
「?」

七聖は、そういう……恋人のイチャつきみたいなこと、したくないのかな。

って、なに考えてんだ俺!
いや、でも、一応確認しとくか。


「なぁ七聖」

七聖
「ん?」


「俺のこと、彼氏として意識してる?」

七聖
「……え、うん。彼氏……じゃん?」

彼氏とは認識してくれてるな。

じゃあ……。


「男として、見てる?今だってキスとかできちゃうけど、そういうの考えたりしてる?」

七聖は少し顔を赤くすると、こくんっと縦に頷いた。

七聖
「恋人って、何するかわからないけど……優心になら、その……キスとか、嫌じゃない」

……やばい!俺の目おかしくなったか!?
七聖の周りに、たくさんのハートが見える!

いや、幻覚なんだろうけど!

これ以上抱きしめてると危ないな、色々。

そう思って身体を離した俺。


「じゃあ、もう寝るか」

七聖
「え、今の質問なんだったの?結局」


「べっつにー」

七聖は、知らなくていい。

その時になったら、俺が教えるから。

✿七聖side✿


「ひっなた〜!いっつき〜!ケンカしよ!」

翌日、私は倉庫で日向と樹にそう言った。

……が。

日向
「え!ケンカはダメでしょ!」


「お前アホか!俺らが七聖に怪我させるようなことするわけねーだろ!アホ!」

が、ガーン……!


「なにもそんな2回もアホって言うな!」

優心
「な〜な〜せ〜」

ギクッ……。

恐る恐る振り向くと、仁王立ちで私を見下ろす優心がいた。
優心
「お前、ふざけんな!なに右目見えねぇのにケンカしようとしてんだ!ケンカはもうしないって約束だろ!!」

うわっ、また来たよ説教!


「片目だけでもケンカできるし!」

優心
「お前はダメだ!万が一殴られたりでもしたらどうすんだよ!?ちゃんと女って自覚を持てよな!」


むぅ……。


「優心のケチ」

優心
「七聖がわからなさすぎだ!いいか?七聖はそりゃ強いけど、右を狙われたら危ない目に合うんだからな!?」


「もう!そんなお父さんみたいに説教しないでよ!優心は私の彼氏じゃないの!?」
優心
「はぁ!?彼氏だから心配してこう言ってるんだろ!?」

ムッカァ……。


「だからって過保護すぎるよ!もうどこにもぶつからないで歩けるようになったよ?」

優心
「またぶつかるかもしんないだろ!頼むからケンカはしないで!」

琥太郎
「おいおい、ふたりともそこまでにしろよ」

私と優心を引き離した琥太郎。

あ……。

朝陽
「ほんと、ふたり仲良しなのはいいけどケンカしすぎじゃない?」

蒼馬
「よく成り立ってるね……」