世界No.1暴走族・天海朧月 下

七聖
「別に。なんもない」

そっけねぇな……。

……あ。


「じゃあ、キスしていい!?」

七聖
「うん……っはぁ!?」

顔を赤くした七聖。

俺は七聖の腕を引き寄せて、唇にキスをした。

七聖
「んぅ……っ」


「引っかかった」

七聖が睨んできたから、べーっと舌を出してそう言った。

少しは戻ってきたかな?
今まで……ひとりで、溜め込んでたんだ。

そりゃ、クセもつくよな……。


「なぁ……何悩んでる?」

七聖
「っ……言えないよ」


「なんでだよ?」

まただんまりか……。


「なぁ、言ってくれねぇと守りたくても守れないことだってあんだよ」

七聖
「……ごめん」


「今の七聖、泣きたいって顔してる」

七聖の頬にそっと手を添えた。

こんな瞳揺らしてて、放っとく方がおかしい。

「俺言ったじゃん。泣きたい時に泣けばいいって。みんなの前では無理してても、俺の前では全部見せていいんだよ。そのために一緒にいるんじゃん?」

七聖は目を見開くと、目を伏せた。

いつになったら……全部、預けてくれる?

七聖
「………の」


「え?」

俺の袖をギュッと握って、俺を見た。

七聖
「お兄ちゃん、がっ……生きてるの……!」

…………はっ?

お兄ちゃんって……は、疾風さん?


「白狐が殺したって……」

七聖
「罪を犯した他の族の人だって……生きて、るんだよっ……この世界のどこかにいるのっ」
嘘、だろ……。

疾風さんは、生きてる……!?

七聖
「言えなかった……っ。私だってまだ理解できてないのに、こんなの、言えるわけない」


「……兄ちゃんも、居場所わかんないって?」

こくんっと静かに頷いた七聖。

七聖を見る限り、本当なんだ。

七聖
「何のために、海王に潜入して、白狐と戦うんだろって思って……わかんなくなった」

前にも……こういうことあったな。


「……俺らは、世界一の族になるんだろ。七聖が海王に来てくれたから、俺はお前に出会えたし」

それは、ずっと変わらない。
七聖
「優心……」

ポロッと涙を零した七聖。

七聖
「わ、たし……お兄ちゃんに、会いたい……」

必死に涙を拭う七聖は、強くなんかない。

アイツらは、七聖を強いと言うけど……違う。

本当の七聖は、弱くて、とても脆いんだ。

それを、強気で明るい仮面を被ってるだけ。

……常に、誰かのことを考えて。

俺には……そんな綺麗な心はない。

なくても……。


「……探そう」

七聖
「え……?」
ギュッと七聖を抱きしめた。

なくても、そばにいたい。

七聖がひとりで苦しんでるのなんか嫌だ。

俺に、全部吐き出して欲しい。


「まずは、白狐を倒して俺らがNo.1になろう。そしたらまた世界が広がるし、ケンカする族も多数になる」

七聖
「でも……」


「疾風さんは、七聖と琥太郎に会いに来るよ。絶対に!」

あの人は、よく妹と弟の話をしてた。

俺と同い年だからって。


「だから、俺を頼って。七聖」

七聖
「っ……うん」
七聖は俺を見上げると、安心したのか柔らかい笑顔を浮かべた。

ドキッ……。

やばい、不意打ち笑顔は心臓に来る。

そろそろ……いや、ダメだよな。

まだ付き合って1か月も経ってねぇのに、さすがに早いだろ!

キスだって、触れるだけなのに……!

七聖
「優心?眉間にシワ寄せてどしたの?」

無自覚な上目遣い……。


「べつに……」

七聖
「?」

七聖は、そういう……恋人のイチャつきみたいなこと、したくないのかな。

って、なに考えてんだ俺!
いや、でも、一応確認しとくか。


「なぁ七聖」

七聖
「ん?」


「俺のこと、彼氏として意識してる?」

七聖
「……え、うん。彼氏……じゃん?」

彼氏とは認識してくれてるな。

じゃあ……。


「男として、見てる?今だってキスとかできちゃうけど、そういうの考えたりしてる?」

七聖は少し顔を赤くすると、こくんっと縦に頷いた。

七聖
「恋人って、何するかわからないけど……優心になら、その……キスとか、嫌じゃない」

……やばい!俺の目おかしくなったか!?
七聖の周りに、たくさんのハートが見える!

いや、幻覚なんだろうけど!

これ以上抱きしめてると危ないな、色々。

そう思って身体を離した俺。


「じゃあ、もう寝るか」

七聖
「え、今の質問なんだったの?結局」


「べっつにー」

七聖は、知らなくていい。

その時になったら、俺が教えるから。