世界No.1暴走族・天海朧月 下


「お兄ちゃんはっ!?お兄ちゃんは、今、どこにいるんですか!?」


「分からないんだ……突然失踪したんだよ。今も音信不通。最後に会ったのは俺だけど俺もわからない」

っそんな……!

じゃあ、私は何のために海王に潜入したの?

何のために、白狐に復讐するの?

なんのために…………。

足に力が入らなくなって、その場に崩れ落ちそうになった。

が。

優心
「おい!しっかりしろ!」

優心に抱き上げられて、我に返った。

「げっ、優心!」

優心
「なんの話か知らねぇけど、七聖を傷つけるのだけは許さねーぞ!」

な、なんか誤解してる!


「違うよ優心!剣さん私になにもしてない!」

優心
「ならいいけど……」

チラッと剣さんを見た。


「また今度話そうか、七聖ちゃん」

剣さんは切なそうな笑みを見せると、家の中へ戻って行った。

まだ、話したいことあった。

でも、頭が追いつかない。

お兄ちゃんは………生きてる。




今も、どこかで………。
✶優心side✶

翔悟
「なぁ……」

大和
「なんか……」


「やっぱり……七聖、なんかあったよな?」

翌日、今日は海王の倉庫に来ていた。

遠くにいる七聖を見ると、何かを考え込むような、闇に包まれるような感じで。

なんだ……?何があったんだよ!?

琥太郎
「一昨日は元気だったけど。優心、なんか知らないの?」


「……わかんねぇ」

兄ちゃんに聞いても、わかんないの一点張りだしよ!
でも……七聖は、放っとくと壊れる。

すべて、我慢する不器用だから。


「あれ、またなんか溜め込んでるよ」

朝陽
「……優心なんかした?」


「なんもしねーよ!」

蒼馬
「とりあえず……どこかに行かないように見とかないとね」

……気になる。

明らかに、兄ちゃんのせいだろ。




「七聖、お前なんかあった?」

夜、七聖のベッドでそう聞いた。

七聖はあからさまに肩を揺らすと、俺から目を逸らした。
七聖
「別に。なんもない」

そっけねぇな……。

……あ。


「じゃあ、キスしていい!?」

七聖
「うん……っはぁ!?」

顔を赤くした七聖。

俺は七聖の腕を引き寄せて、唇にキスをした。

七聖
「んぅ……っ」


「引っかかった」

七聖が睨んできたから、べーっと舌を出してそう言った。

少しは戻ってきたかな?
今まで……ひとりで、溜め込んでたんだ。

そりゃ、クセもつくよな……。


「なぁ……何悩んでる?」

七聖
「っ……言えないよ」


「なんでだよ?」

まただんまりか……。


「なぁ、言ってくれねぇと守りたくても守れないことだってあんだよ」

七聖
「……ごめん」


「今の七聖、泣きたいって顔してる」

七聖の頬にそっと手を添えた。

こんな瞳揺らしてて、放っとく方がおかしい。

「俺言ったじゃん。泣きたい時に泣けばいいって。みんなの前では無理してても、俺の前では全部見せていいんだよ。そのために一緒にいるんじゃん?」

七聖は目を見開くと、目を伏せた。

いつになったら……全部、預けてくれる?

七聖
「………の」


「え?」

俺の袖をギュッと握って、俺を見た。

七聖
「お兄ちゃん、がっ……生きてるの……!」

…………はっ?

お兄ちゃんって……は、疾風さん?


「白狐が殺したって……」

七聖
「罪を犯した他の族の人だって……生きて、るんだよっ……この世界のどこかにいるのっ」
嘘、だろ……。

疾風さんは、生きてる……!?

七聖
「言えなかった……っ。私だってまだ理解できてないのに、こんなの、言えるわけない」


「……兄ちゃんも、居場所わかんないって?」

こくんっと静かに頷いた七聖。

七聖を見る限り、本当なんだ。

七聖
「何のために、海王に潜入して、白狐と戦うんだろって思って……わかんなくなった」

前にも……こういうことあったな。


「……俺らは、世界一の族になるんだろ。七聖が海王に来てくれたから、俺はお前に出会えたし」

それは、ずっと変わらない。
七聖
「優心……」

ポロッと涙を零した七聖。

七聖
「わ、たし……お兄ちゃんに、会いたい……」

必死に涙を拭う七聖は、強くなんかない。

アイツらは、七聖を強いと言うけど……違う。

本当の七聖は、弱くて、とても脆いんだ。

それを、強気で明るい仮面を被ってるだけ。

……常に、誰かのことを考えて。

俺には……そんな綺麗な心はない。

なくても……。


「……探そう」

七聖
「え……?」