世界No.1暴走族・天海朧月 下

ギュッと拳を握った。

知りたい……お兄ちゃんのこと。

剣さんはジッと私を見ると、


「なるほどねぇ……」

と呟いた。

……?なるほどって?


「七聖ちゃん、疾風のことだけど……それはちょっとふたりで話したいな」

へ?

優心
「俺も行っちゃダメなのか?」


「悪いな。七聖ちゃんとふたりじゃねーと話せないから。行こう、七聖ちゃん」


「は、はい」
私は立ち上がって、剣さんについていった。

連れてかれたのは、庭だった。


「疾風は、俺にあるお願いをしてきたんだよ」


「お願い……ですか?」


「そ。妹と弟に何かあったら頼むって」

え……。


「たぶん、分かってたんだろうなぁ。白狐が自分を狙ってることくらい。天王の総長だし」

私と琥太郎に何かあったら?

何かって……なに?


「でも七聖ちゃん、実を言うと疾風はまだ生きてるんだよ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。

………え?

剣さんを見ると、真剣な瞳で。


「い…今、なんて……」


「疾風はまだ生きてるんだ。本当に」

生きて……る?

嘘……そんなの、嘘でしょ?


「っ白狐の柊は、殺したって……あの冷凍庫で死んだって………」


「あれは罪を犯した他の族のこと。白狐は疾風に会ったことも無くて顔が認識できてなかった。だから疾風は生きてる」

別の人ってこと………?

待って……じゃあ、どこにいるの?

「お兄ちゃんはっ!?お兄ちゃんは、今、どこにいるんですか!?」


「分からないんだ……突然失踪したんだよ。今も音信不通。最後に会ったのは俺だけど俺もわからない」

っそんな……!

じゃあ、私は何のために海王に潜入したの?

何のために、白狐に復讐するの?

なんのために…………。

足に力が入らなくなって、その場に崩れ落ちそうになった。

が。

優心
「おい!しっかりしろ!」

優心に抱き上げられて、我に返った。

「げっ、優心!」

優心
「なんの話か知らねぇけど、七聖を傷つけるのだけは許さねーぞ!」

な、なんか誤解してる!


「違うよ優心!剣さん私になにもしてない!」

優心
「ならいいけど……」

チラッと剣さんを見た。


「また今度話そうか、七聖ちゃん」

剣さんは切なそうな笑みを見せると、家の中へ戻って行った。

まだ、話したいことあった。

でも、頭が追いつかない。

お兄ちゃんは………生きてる。




今も、どこかで………。
✶優心side✶

翔悟
「なぁ……」

大和
「なんか……」


「やっぱり……七聖、なんかあったよな?」

翌日、今日は海王の倉庫に来ていた。

遠くにいる七聖を見ると、何かを考え込むような、闇に包まれるような感じで。

なんだ……?何があったんだよ!?

琥太郎
「一昨日は元気だったけど。優心、なんか知らないの?」


「……わかんねぇ」

兄ちゃんに聞いても、わかんないの一点張りだしよ!
でも……七聖は、放っとくと壊れる。

すべて、我慢する不器用だから。


「あれ、またなんか溜め込んでるよ」

朝陽
「……優心なんかした?」


「なんもしねーよ!」

蒼馬
「とりあえず……どこかに行かないように見とかないとね」

……気になる。

明らかに、兄ちゃんのせいだろ。




「七聖、お前なんかあった?」

夜、七聖のベッドでそう聞いた。

七聖はあからさまに肩を揺らすと、俺から目を逸らした。
七聖
「別に。なんもない」

そっけねぇな……。

……あ。


「じゃあ、キスしていい!?」

七聖
「うん……っはぁ!?」

顔を赤くした七聖。

俺は七聖の腕を引き寄せて、唇にキスをした。

七聖
「んぅ……っ」


「引っかかった」

七聖が睨んできたから、べーっと舌を出してそう言った。

少しは戻ってきたかな?
今まで……ひとりで、溜め込んでたんだ。

そりゃ、クセもつくよな……。


「なぁ……何悩んでる?」

七聖
「っ……言えないよ」


「なんでだよ?」

まただんまりか……。


「なぁ、言ってくれねぇと守りたくても守れないことだってあんだよ」

七聖
「……ごめん」


「今の七聖、泣きたいって顔してる」

七聖の頬にそっと手を添えた。

こんな瞳揺らしてて、放っとく方がおかしい。