世界No.1暴走族・天海朧月 下


「お!疾風の妹じゃーん!」

サングラスを取った、爽やかイケメンがいた。

優心
「兄ちゃん、帰ってくんの早いね」


「優心の彼女早く見たくて!なぁなぁ、七聖ちゃん!俺のことはお兄ちゃんでいいよ?」

う、ち、近いっ……!

この人、本当に先代なの!?

優心
「おい兄ちゃん!人の彼女に近すぎ!」

グイッと私を抱き寄せた優心。

ちょ、家族の前なのに!


「確か、右目見えないんだっけ?ごめんな?俺元々人との距離近いんだよ」


「は、はぁ……」
あ!挨拶まだだった!


「あ、あああのっ、み、帝七聖です!」


「緊張してるの?俺は真藤剣!疾風の親友でもあり戦友だよ。よろしく」

お兄ちゃんの……お友達。

きっと、いいライバルだったんだな。


「でもびっくりした〜、まさか合併するなんてな。聞いた時頭真っ白になったし」

優心
「悪い。状況が状況で……」


「なーんも、守りたいもの守れたんならそれでいいじゃん。気にすんな?優心」

仲良しだなぁ……。


「あ、あの……お兄ちゃんは、何を守りたかったのかわかりますか?」
ギュッと拳を握った。

知りたい……お兄ちゃんのこと。

剣さんはジッと私を見ると、


「なるほどねぇ……」

と呟いた。

……?なるほどって?


「七聖ちゃん、疾風のことだけど……それはちょっとふたりで話したいな」

へ?

優心
「俺も行っちゃダメなのか?」


「悪いな。七聖ちゃんとふたりじゃねーと話せないから。行こう、七聖ちゃん」


「は、はい」
私は立ち上がって、剣さんについていった。

連れてかれたのは、庭だった。


「疾風は、俺にあるお願いをしてきたんだよ」


「お願い……ですか?」


「そ。妹と弟に何かあったら頼むって」

え……。


「たぶん、分かってたんだろうなぁ。白狐が自分を狙ってることくらい。天王の総長だし」

私と琥太郎に何かあったら?

何かって……なに?


「でも七聖ちゃん、実を言うと疾風はまだ生きてるんだよ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。

………え?

剣さんを見ると、真剣な瞳で。


「い…今、なんて……」


「疾風はまだ生きてるんだ。本当に」

生きて……る?

嘘……そんなの、嘘でしょ?


「っ白狐の柊は、殺したって……あの冷凍庫で死んだって………」


「あれは罪を犯した他の族のこと。白狐は疾風に会ったことも無くて顔が認識できてなかった。だから疾風は生きてる」

別の人ってこと………?

待って……じゃあ、どこにいるの?

「お兄ちゃんはっ!?お兄ちゃんは、今、どこにいるんですか!?」


「分からないんだ……突然失踪したんだよ。今も音信不通。最後に会ったのは俺だけど俺もわからない」

っそんな……!

じゃあ、私は何のために海王に潜入したの?

何のために、白狐に復讐するの?

なんのために…………。

足に力が入らなくなって、その場に崩れ落ちそうになった。

が。

優心
「おい!しっかりしろ!」

優心に抱き上げられて、我に返った。

「げっ、優心!」

優心
「なんの話か知らねぇけど、七聖を傷つけるのだけは許さねーぞ!」

な、なんか誤解してる!


「違うよ優心!剣さん私になにもしてない!」

優心
「ならいいけど……」

チラッと剣さんを見た。


「また今度話そうか、七聖ちゃん」

剣さんは切なそうな笑みを見せると、家の中へ戻って行った。

まだ、話したいことあった。

でも、頭が追いつかない。

お兄ちゃんは………生きてる。




今も、どこかで………。
✶優心side✶

翔悟
「なぁ……」

大和
「なんか……」


「やっぱり……七聖、なんかあったよな?」

翌日、今日は海王の倉庫に来ていた。

遠くにいる七聖を見ると、何かを考え込むような、闇に包まれるような感じで。

なんだ……?何があったんだよ!?

琥太郎
「一昨日は元気だったけど。優心、なんか知らないの?」


「……わかんねぇ」

兄ちゃんに聞いても、わかんないの一点張りだしよ!
でも……七聖は、放っとくと壊れる。

すべて、我慢する不器用だから。


「あれ、またなんか溜め込んでるよ」

朝陽
「……優心なんかした?」


「なんもしねーよ!」

蒼馬
「とりあえず……どこかに行かないように見とかないとね」

……気になる。

明らかに、兄ちゃんのせいだろ。




「七聖、お前なんかあった?」

夜、七聖のベッドでそう聞いた。

七聖はあからさまに肩を揺らすと、俺から目を逸らした。