世界No.1暴走族・天海朧月 下

もう、誰も失いたくない。

大切な人、いなくなるなんて嫌だ。

優心
「安心しろって!俺は七聖を残して死んだりなんてしねーんだから!な!?」

優心……。

優心
「お前は信じて待ってればいーの!」


「……ふっ、ありがとう」

優心
「ほら、塗れたし後は乾かすだけ!」

落ち着かない。

でも……それはみんな同じなんだ。

夏。

蒸し暑さが、さらに私たちの心を……精神を、緊張させていく。


✿七聖side✿

優心
「なぁ七聖、お前の兄貴ってなんて名前?」

私のお部屋でくつろぐ優心。

夏休みになってから、優心は私の家に泊まるようになった。


「帝……疾風だよ」

優心
「………え、疾風ってあの疾風さん!?」

……?


「会ったことでもあんの?」

優心
「師匠に決まってんだろ!」

……師匠??

お兄ちゃんが?
優心
「あー……俺がまだ弱かった時、街歩いてたらチンピラとぶつかってさ。そん時に、素早く助けてくれたんだよ」

そんなことがあったんだ……!

さすがお兄ちゃんだなぁ……。

優心
「その時のケンカがすげーかっこよくて!兄ちゃんと親友だったのは後から知ったんだけどな!ふたりからケンカ教えてもらうようになったんだよ!」

……ん?


「優心……お兄ちゃんいるの?」

優心
「?言ってなかったっけ?いるよ!」

………えぇ!


「あ、会ったことない!」
優心
「まぁ、今海外にいるし……?」

えぇっ!


「……優心の家族に会いたいな。仲良くなりたいなぁ」

優心
「っ……」

最近、お父さんがよく一緒にご飯連れてってくれたりしてる。

でも、あんまり真藤家とは関わってないから。

優心
「まぁ、いいよ。会わせてやるよ!」


「怖い人だったりする?お兄さん」

優心
「いや?あ、ロリコンだけど。名前は剣」

剣(けん)かぁ……。
優心みたく、優しかったりするのかな。

……なんて。

優心
「あ!兄ちゃんに惚れんなよ!?」


「なっ!優心以外に惚れるわけないじゃん!」

優心
「お前はミーハーそうだから心配なんだよ!」

あーもう!うるさいなこの男は!

私は優心の頬を両手で挟んだ。


「私はっ、優心しか見えてないんだよ!現に天王も海王も男しかいないのに、私が選んだのは優心だもん!優心にしかドキドキしないし優心とじゃないとキスしたくない!」

優心
「っ……ならいいんだよ!」


「んっ……!?」
まさか、お兄ちゃんの親友に会えるなんて。

優心
「あ、兄ちゃんは海王の先代だから」

………へ。

え、待って待って……!


「お兄ちゃんとは、敵同士?」

優心
「ふたりの感じ見てると、戦友って感じ」

なんか、意外……。

だからお兄ちゃんは、あんな約束をしたのか。

きっと……海王のことも大事だったんだ。

……。

白狐は……なんでお兄ちゃんを殺したんだろ。

お兄ちゃんは、誰かを傷つけるようなことは絶対しないのに………。
優心
「……不安?」

我に返って、優心を見た。

不安……なのかな。


「わからない……でも、お兄ちゃんは誰かを傷つけるようなことは絶対しない」

優心
「なら、信じればいいんだよ!」

信じる……か。

お兄ちゃんは、何を守りたかったのかな?



数日後、私は優心の家に来ていた。

舞衣
「七聖ちゃん、右目はどう?大丈夫?」


「はい!もう慣れましたよ〜」

文也
「何かと事故になるかもしれないから、優心守ってやるんだぞ」
優心
「わかってるって」

今日は、優心のお兄ちゃんが家に来るんだ。

優心が私のことをお兄さんに説明したら、すごく会いたがってたみたい。

どんな人なんだろ?

優心
「なぁ、白狐って父さんたちの代の時は確か弱かったんだよな?」

そっか、私のお父さんが先々代なように、優心のお父さんも先々代なんだ。

文也
「あぁ、まだ正統な族だったからな。けど、薬や武器なんかに手を出し始めて変わった」

舞衣
「あの時も天王と海王を巻き込んですごかったわよね……」

舞衣さんも知ってるんだ。

「なっつかしいなぁ〜!族の話とか!」

突然知らない声が後ろから聞こえて振り向くと。

「お!疾風の妹じゃーん!」

サングラスを取った、爽やかイケメンがいた。

優心
「兄ちゃん、帰ってくんの早いね」


「優心の彼女早く見たくて!なぁなぁ、七聖ちゃん!俺のことはお兄ちゃんでいいよ?」

う、ち、近いっ……!

この人、本当に先代なの!?

優心
「おい兄ちゃん!人の彼女に近すぎ!」

グイッと私を抱き寄せた優心。

ちょ、家族の前なのに!


「確か、右目見えないんだっけ?ごめんな?俺元々人との距離近いんだよ」


「は、はぁ……」