アローナについて砂漠を渡り、メディフィスまでやってきたエンの後輩侍女フウは、アッサンドラとはまた趣の違う、大きな街、大きな宮殿に圧倒されながらも、日々、懸命に働いていた。
そんな或る日の朝。
フウが精一杯、緊張を見せないようにして宮殿の中を歩いていると、大きな円柱の陰から、ちょいちょいと手招きしているものがいる。
アローナだ。
姫様、相変わらず、お美しい。
そして、相変わらず、何処にでも、あっという間に馴染む人だ……。
ちょっと羨ましい……と思いながら、フウはアローナの許に行った。
「フウ、馬車を手配して欲しいんだけど」
と言ってくるアローナに、
「何処に行かれるのですか?」
と問うと、しっ、とアローナはフウの肩をつかんで、更に隅へと連れていく。
「ちょっと内緒で行きたいところがあるの」
「どちらにですか。
わたくしもついて参ります。
姫様になにかありましたら、エン様に顔が立ちませんから」
いや、王にとかじゃなくてか、という顔をアローナはした。
あまり面識のないジン様より、遠くにいるアッサンドラの王より。
今にも現れて、後ろからどついてきそうなエン様の方が怖い、とフウは思っていた。