「シャナ、お役目は終わったか」
シャナがカーヌーンを返しに兵士の詰所に行くと、フェルナンはそう訊いてきた。
「どうだ。
今夜は首尾良く行きそうだったか?」
今、ちょうど誰もいないから、そんなことも訊いてくる。
「王とアローナ様ですか?
王は私がカーヌーンを抱え、帰り支度をしている間に出て行かれましたよ」
「……駄目じゃないか」
と眉をひそめたフェルナンは、
「なにしに行ったんだ、お前」
と言ってくる。
「いや、カーヌーンを弾きにですよ」
と言うと、フェルナンは、
「アローナ様の演奏ではロバが踏み殺されるばかりだから、お前が雰囲気を盛り上げに行ったのかと思ったのに」
と言う。
フェルナンはシャナがカーヌーンを弾き、アローナが美しい歌声を披露したところで、よしよし、と思って寝室の前から去ったようだった。
まあ、アローナが歌っていたのは、調味料の順番だったので、そもそもが雰囲気に欠ける歌ではあったのだが。
彼女はアッサンドラの言葉で歌っていたので、そこは意識的にスルーすれば、スルーできないこともなかっただろう。