まるでそれは自分の孫や娘を見つめるかのような眼差しだった。
強面の人だって、顔に傷のあるおじさんだって、小指が短い人だって、見た目に異なって喜びの反応を見せてくれる。
それはきっと私が組長の孫という、大きくて特別な肩書きがあるからこそなんだろうけど。
「絃、自己紹介しろ」
「う、うん…」
那岐に言われて、すっと息を吸う。
それが言葉を発する行動だと察知すれば、辺りは一斉に静寂が包んだ。
仁義を重んじるのが極道。
こういう礼儀作法は徹底しているらしい。
「天鬼 絃です…!す、好きなお寿司のネタはつぶ貝です!よろしくお願いしますっ」
その瞬間。
ドッと、笑いが大広間いっぱいに埋まった。
「面白い娘だ。こんな自己紹介は初めてだぞ!」
「さすが組長の孫なだけあるじゃないか。あのひとも突然すっとんきょうなことを言うからなぁ」
「ほら食べなさい。ここにつぶ貝があるぞお嬢さん」
え、どうしてそんなにウケてるの…?
私、そんなに変なこと言った…?
困惑したまま隣へと視線を向けてみれば、ため息を吐くように鼻で笑う顔とぶつかる。
だって自己紹介ってこういうものじゃないの…?