「やっぱり歩きにくいよっ!普通に洋服じゃ駄目なの?」
「外ではいいっつったろ」
「自分はどこでもスーツのくせに!」
あ、ほらまた安定のスルーだ。
都合が悪くなるとお口チャックするの何なの…?
そういう仕様なの…?なんて思ってる私は、さっきからブーブーと文句を垂れていた。
ピシッと着付けられた若草色の無地をした着物に、毬の模様が描かれたシンプルな帯。
そんな姿がどうやら室内での普段着らしい。
唯一、髪の毛だけはポニーテールであることを許してくれたけど…。
「那岐さんっ!こちら準備ができました───ってお嬢!昨日より大人っぽくなられて!!」
「その呼び方やめてって言ってるでしょ!
それと私はまだ熟女にはならないからっ」
「あと30年は先っ───あがっ!」
そしてやっぱり俊吾は那岐の拳を食らった。
この人もいい加減学べばいいのに…って思うけど、那岐も殴ることないのになぁ。
一室の前、閉じられた襖の先からはガヤガヤざわざわと低い男たちの声が聞こえてくる。
「……私、やっぱり帰りたい…」
「今更なに怖じ気付いてんだよ。腹括ったんだろ」