良かったと思った。
正直、俺はホッとしていた。

さっき車の中で泣かなかった背中は妙に小さくて寂しそうだったから。


こうして再び笑顔が戻ってくれて一安心だ。



「…ねぇ、那岐」


「なんだ」



名前を躊躇いなく呼べるようになった少女は、ふと笑顔が戻る。



「ここに…お父さんもいるの…?」


「おやっさんは忙しい人だ。組長の代わりに色んな場所に出向いてるから、この場所にもそこまで顔は出さねえが…」



そうなんだ、と返事をしない代わりに複雑そうな瞳を向けてきた。

頭ひとつぶん小さい絃へ、そっと腕を伸ばす。



「…きっと近いうちに会えるだろうな」



あのひとが俺の次にお前に会いたがっていた───とは、会ったときに分かるだろう。


ポンポンと柔らかい髪を叩くと、反動で後ろに結った毛先がぴょんぴょん跳ねる。

なにより会いたかったのは、俺だ。
ずっとこうしたかったのは……俺だ。



「…それと、私たちって昔どこかで会ったことない…?」



これは俺が決めたこと。

こうして守れるようになった今、2度とこいつにあんな思いはさせないために。



「いや、ねえな。どこかですれ違ったりはしてるかもしれねえが」


「…そ、そうだよね、」



俺がこいつと義理の兄妹だということ。

かつて俺がこいつの手を引いて走っていたということ。


それを───隠すと。