那岐side




「とりあえず明日、正式にお前の紹介がある。今日はもう休め」


「え、…ひっろ…!!」



天鬼組本部の敷地内は住宅地から少し離れた場所に位置し、有り余る土地をふんだんに使った日本家屋の屋敷。

そして同じくらい広い日本庭園に囲まれて、初めてここに来た者は必ず口をポカンと開ける。


幾つかの区切りに分かれており、全国に各拠点はあるが、組の上層部しか屯わない場所がこの本部だった。


だから幹部である俺もこの屋敷で生活をしているが、与えられた一室を見て絃は瞳を輝かせた。



「ここって温泉旅館なの!?」


「お前の身分で言えば普通だ」


「今まで2人一部屋の2段ベッドだったのに!わぁっ、布団でひとりで寝てもいいの!?」


「当たり前だろ」



その笑顔は幼い頃にある幼いものと何ひとつとして変わってはいなかった。

つい顔がほころびそうになるが、常に油断してはならない立場上、ポーカーフェイス。


物心つく前から施設に預けられたこいつは今まで窮屈な中で過ごしていたはずなのに、笑顔は太陽のようだった。


それほどあの場所が絃にとって悪い場所ではなかったということが分かる。



「風呂はおまえ個人のものが用意されてある。好きに使え」


「なにそれっ!そんなの勿体ないから那岐も使っていいよ!」


「…俺も自分のがあんだよ」