「…なんつうか、その、」
「うん?どうしたの…?」
「あれだ、…その、」
こうして起きている絃に、言葉の通じるようになった絃に気持ちを言うことは初めてだった。
上手く考えがまとまらない。
いつもは寝ていたからこそ、聞こえていないからこそ言えたものだったが。
それでも今は面と向かってまっすぐ伝えたい。
「これからも一緒に……冒険の書を、集めに行こう」
「うんっ!」
……馬鹿か俺は。
そうじゃない、そうじゃねえだろ。
もういいんだよ冒険の書は。
こうして新しい形に変わったんだから。
俺の願いは叶ったんだから。
「いや、そうじゃねえ、…それだけじゃない」
「那岐?」
そうだよ天道。
お前の言っていた通り、俺はこういうものはさっぱりだ。
「料理とか、別にできなくていい。なんなら毎日バニラアイスでいいくらいだ」
「…え。お腹こわしちゃわない…?」
「いろんなところにも連れてく。海でも山でも遊園地でも。…ぜんぶ一緒に行こう」
きっと俺は今、一言で表すならばヘタレだ。
どんなに武術等に優れてたって、最年少で幹部にまで上り詰めたって、今は若頭になったって。
「ふふっ。…うん」
それでも笑ってくれるこいつが、すきだ。
空白の14年。
あの頃は辛く寂しい別れだったとしても、今はすべてを埋められる。
あの頃の思い出もぜんぶ持って、それでここから新しく始められる。
「絃。…俺と───……」
*