冒険の書を探してた───と、つぶやいた俺に笑いかけた絃。



「冒険の書?あははっ!那岐のほうが探す気満々だよねっ」


「…あぁ、そうかもな」



あったんだよ、冒険の書は。

もうすでに俺たちの目の前にあるんだ。


そんな絃は俺の左腕をそっと掴むと、なにかをスルッと通した。

紫色の玉が妖艶に優しく輝いている。



「那岐に作ったの!コツコツ作って、やっと完成したんだよ」



それは俺が初めて身に付けるアクセサリー。

ネックレスもピアスも指輪も、俺は1度もしたことが無かった。



「アメジストっていってね、なんと!実は魔除けの意味があるから冒険には持ってこいの───…っ、」



優しく包み込んだ。

反動ですぐに離れてしまわないように、後頭部にそっと手を回して。



「んっ…、……なぎ、」



ゆっくり離れると、甘い声で名前を呼ばれる。

照れたその色は夕焼けに染まったものではない。



「…進路、決まったのか」


「え、…あっ、いやっ!それがまだぜんぜん決まってなくて…!」


「海外にだけは行くなよ」


「え…?」



いつかにそう言っていた。


だがもしお前が本当に行きたいと思って言っているのなら、俺もそこは考えるが。

でもそのときは、もちろん一緒に。



「でも海外に行ったら、那岐と離れちゃうから…やめる…、」



そんなものが可愛かった。


へへ、と笑う顔も。
寒さに少しだけ赤い鼻も。

ポニーテールの揺れる茶色も、前髪が風に吹かれると見える傷痕も。


───…ぜんぶ、かわいい。