手を繋ぐ親子、チラシ配りの店員、犬と一緒に走る男、制服を着た学生の集団。
電車のホーム音、車が出す排気音。
烏が羽ばたく茜色の空、雑踏の中から聞こえる会話。
様々な音で溢れている街。
そんな場所を走って、走って、走って。
「おい、絃は見なかったか、」
「わっ!またイケメン執事っ!!なんなのあたしに気があるんですか!?」
「それはない。絃はもう帰ったのか、」
「絃なら毎度のことベンツに乗って帰りましたけど…。てか、即答とかひっどーい!!」
…あぁ、そうだった。
気づけばキャーキャーと周りに囲まれる校門前。
お前のことを考えたら車にも乗らず、ただ走って来てしまったらしい。
「写真お願いできませんか!?」
「1枚だけでいいんですっ!!」
「きゃーーーっ!!」
そんな中を再び抜けて走る。
キラキラ輝く夕暮れ空の下、俺は向かうべき場所へ。
待ってくれている大好きな存在がいる場所へ。
『ただいま、絃』
『なぎっ!』
ランドセルを背負った俺はいつも走って帰宅していた。
早く会いたくて、早くこの腕に抱きたくて、その笑顔が見たくて。
そんなふうに、今日も走った───。
「那岐っ!久しぶり!あ、ネクタイの模様変わってる!」
屋敷に戻れば、こうして振り返って必ず名前を呼んでくれる。
「おかえり」と、嬉しそうに笑った絃。
俺はそのまま小走りに近づいて抱きしめた。
「わっ!那岐どうしたの…?走ったの…?」
「あぁ、走った」
「なにかあったの…?あっ!もしかして誰かに狙われてるとか!?」