「───…いと、」



この先も俺はお前を泣かせるかもしれない。

この先も俺の柵─しがらみ─がお前を苦しめて、俺たちを繋げる“絃”を誰かが簡単に切ってしまうかもしれない。


それでもお前が傍にいてくれるなら。

お前がずっと、俺の隣にいてくれるなら。



『もしそうだとしても、私───…那岐が隣に居てくれるなら全然怖くない』


『那岐が一緒なら、ぜんぜん平気。…那岐がいなくなっちゃうほうが怖いもん』



同じだった。

俺もそうなんだ。


だから俺たちは毎日一緒にいたんだ、そうだろう。

短い期間だったかもしれない。

だけどそんな毎日はいつも危険と隣合わせだった。


でも、ふたり一緒なら怖くなかった。



『夕焼け小やけの赤とんぼ───…』



そんな俺の前に、かつての俺が座っていた。

そいつは腕に大切そうに抱えた光へと優しく消えそうな声で歌っている。


そんな少年は、ふと俺へ振り返った。



「…お前はいま、…なにが欲しいんだ」



そんな少年に問いかけてみる。


お前がいま一番求めているものはなんだ。

それは、俺が与えてやれるものか。




『俺たちにしかなくて、俺たちにだけ分かるものでいい。
絶対に切れなければ…どんなに汚くたっていい。馬鹿にされたっていい。

そんな、───“絃”が欲しい』




腕の中に抱えられている赤子は目を覚ましたのか、俺たちに手を伸ばしてくる。

きゃっきゃと笑って、必死に掴もうとして。


少年は愛しげに見つめ、そのまま腕に抱いて幻のようにスッと俺の中に溶けた。