「絃織さん、俺も一応“那岐”ではあるからさ。これからは絃ちゃんの友達として俺もあの子を守るよ」
「結構だ。あいつを守るのは昔から俺って決まってんだよ」
あははっと響かせた天道。
冷たい風が吹く冬空を見上げ、微笑む。
「俺の妹がもし生きてたら…、絃ちゃんみたいな子になってたらいいなって…思うよ」
「…天道、」
「絃織さん。俺、あんたとこうして話せて良かった」
それは俺へと謝っているみたいだった。
あのとき逃げてしまってごめんね───と。
「本当は話してみたかったんだよ、あのときも。…挨拶してくれて嬉しかった」
「…あぁ、俺もだよ」
そのままヒラヒラと手を振って去ってゆく。
そのうしろ姿が、タタタタタッと逃げてしまった眼鏡をかけた少年とまったく同じに重なった。
そんないま立っている縁側は、かつて俺が夜の月を眺めていた場所。
満月を見つめて子守唄を歌い、静かに流れる幻想的な2人だけの時間が好きだった。
『…ずっと一緒にいようね、絃』
そのときだけは普段言えない気持ちを言葉に出せるから。
誰も聞いていないから。
いつも隠していた本当の想いを暗闇に溶かすことができて。
『いつか───…俺のお嫁さんにしてあげる。…なんて』
でも俺は、そこでも誤魔化した。
そんな幸せは俺には無いと。
いつか離れるときは来ると。
俺が絃の手を離すとき、そして絃が俺の手を離すときが来るって。
でも、あいつは俺の手を離さなかった。