───だが。
「あいつからは言われてねえが、俺からは言った」
「え…?そうなの?絃ちゃんからそんな話ぜんっぜん聞いたことないんだけど」
そりゃそうだ。
あいつなんかまだハイハイすら出来ない赤ん坊だった。
俺の腕に抱かれて眠る赤ん坊だったのだから。
「てかさ、そもそも2人って付き合ってるんだよね?普通にカップルでしょ?」
「……」
沈黙が広がったことにより「え、まじ?」と、ドン引きしたような反応をしてくる。
……付き合うとか、そうじゃないとか。
考えてみれば改まってそういう話をちゃんとしたことがなかった。
「うっわ~、さいてーい。絃ちゃん可哀想~」
「…付き合うとか、そういう順序は必要なのか」
「そりゃいるでしょーよ。え、まさかいきなり結婚とか考えてるの?」
そんな問いかけに無言という名の肯定をした。
いきなりってわけでもない。
ただ、俺はあいつしかあり得ない。
それは今も昔もずっと。
「だったら、せめてそういうつもりですってことくらいは伝えなさいよー」
「…どう伝えりゃいい」
「うわ、え、待って絃織さんってそのルックスで何にも分かってないの?」
「…放っとけ」
那岐 絃。
この姓を背負わすということの意味を考えていないわけじゃない。
そんなもの、ずっとずっと昔から考えてた。
考えていたから、望めない未来を望んで俺は泣いていたのだずっと。