赦されたら駄目なのだ。
俺たちは赦されてはいけない。

こうして生きている今、せめて恨まれつづけなければいけないというのに。


そこにあいつの名前が出てしまえば、俺ですら言葉を失った。



「絃織さんを恨んだら、…なにより絃ちゃんが傷つくでしょ。昔からきっと」



そうなのだ。

俺より泣くあいつは、いつだって俺以上に傷ついてくれていた。



「俺は友達は大事にする主義だからさ。今日も良いことしちゃった」


「…良いこと?」


「絃ちゃんの進路希望書?に、“那岐 絃になります”って書いておいたんだよねぇ」



今頃どんな反応してるかな?なんて笑うそいつの言っていることが分からない。


「……は?」と、遅れて返事をした俺へとからかうように天道はニッと歯を見せる。



「あぁ、そういえば俺も“那岐”だったなぁ。あり?それじゃ俺が絃ちゃんを貰うってことにもなるの?」


「ふざけんな、それだけはない」



もう兄妹なんかではない俺たちは。
子供と赤子でもない俺たちは。

その意味はひとつしかないと誰もが分かるだろう。



「だって俺、絃ちゃんにプロポーズされちゃってるしねぇ」


「あれは違ぇだろ。そういう意味じゃねえよ」


「いやいや“ここで一緒に生きて”って、あれもうプロポーズじゃん。だって絃織さん言われた?」



…言われてない。

俺もあれはあいつに問い質したいくらい気になっていた。


なんだよ、一緒に生きてって。

友達に言う台詞じゃねえだろ。