那岐side




頭となって組長も代わり、俺はおやっさんと共に天鬼組関連の大企業や仲間たちに挨拶をして回る日々。


正直、面倒ったらありゃしない。

だから上の上には立ちたくなかったというのに、望みと言われてしまえば仕方なかった。


だが見た目はスーツのまま。
変わったといえばネクタイの模様くらいだ。

まぁ色も変わらないし、気づく奴もいないくらいに変化は無いのだが。


本当はおやっさんの選んだスーツを差し出されたが、センスが悪い意味で爆発されていたため、やんわりと断った。



「絃織さんお疲れー。忙しそうじゃん」


「…まぁな」



やっと久しく屋敷に戻って来れた今日。

まさか一番最初に迎えられた顔がこいつだとは嬉しくないが。


俺に何か話したいことでもあるかのように、隣に立った天道。



「もう俺、やめるよ」


「…また馬鹿なこと言い出すなよ」


「うん、言わないよ。でもやめる」



主語がない。

これだけの日本語じゃ何も察することができないが、そのスッキリした表情を見れば悪くはない話なのだろうと。


やめるって、なにをだ。



「絃織さんと絃織さんのお父さんを恨むの、…もうやめる」



その言葉に、俺は思わず隣へ視線を向けた。

ふっと笑っている男は「面倒になっちゃったもん」なんて、いつも通りのおちゃらけ顔で。



「いつまで男の尻追いかけてんだって話じゃん?追いかけるなら女のほうがいいしね」


「いや、恨め。お前は俺たちを恨んでくれ、ずっと」


「だってそしたら絃ちゃん悲しむでしょ」