「おい、クソガキ」



すると今度、那岐が近づいた存在は地面に踞る佳祐だった。

しゃがむように目線を合わせたかと思えば───ガッ!!っと、容赦なく胸ぐらを掴む。



「ちょっと何してるの…!」


「お前は黙ってろ」



血だらけの佳祐を心配しているわけではなさそうだった。

むしろピリピリした冷たい空気が流れて、子供たちは泣き出すことすら出来ないくらいに怯えている。


ギリッと悔しそうに歯を噛んだ佳祐は、一瞬私へ視線を移した。



「こいつを俺たちのところへ行かせたくねえってんなら、てめえが守れるのか」


「…守ります、俺が…、」


「ナメたこと言ってんじゃねえぞ。守れなかっただろうが!!」


「っ…、」



彼はこの状況をずっと見ていたのだ。
きっと私がここに来る、ずっと前から。

あまり表情の変化が分からないような男が声を荒げている。


鋭い眼差しに、カタカタと佳祐の身体は揺れ始めた。



「たとえ結果的に生きてようが、1度でも奴らの手に渡ったらそれは守れてねえんだよ。
…それはたまたま運が良かっただけだ」



佳祐の息を飲む音が聞こえる。



「無力の上に成り立つ綺麗事ほど情けないモンはねえからな」



それは格の違いか、見てきたものの違いか。

知らない世界を見てきた者の説得力か。