「こんな馬鹿げたモン、…もう、壊れちまえ」


「な…ぎ、」


「最初からそんな良心なんか持ってねえんだよ俺だって」



あぁ、逸らせない。

もうだめだ。
捕まってしまっている。



「我慢なんか、…限界なんかとっくに通り越してんだよ」


「…っ……!…っ、」



それは息も吐かせてくれなくて、吐息さえ見逃してくれない。

激しくて強引で、押し寄せた気持ちを流し込んでくるようなもの。


ずっとずっと我慢していたものをぶつけてくるような。

それは佳祐のものとは比べ物にならないくらいの……、


キスだった。



「っん…っ、…な…っ、ぎ…っ!」



そのままひとつに纏めたポニーテールがほどかれて。

畳の上にゆっくりと寝かされて、背中には腕が回されたまま。


覆い被さるように体勢は変わる中でも、唇の熱は与えつづけられていた。



「…俺だって兄貴なんか御免だ。最初からそんなモンになるつもりもなかった」



散らばった髪を集めるように優しく撫でてくれる手。

遠くで上がる花火の音、その音に消されてしまわない声。

甘い甘い囁きのようなもの。



「俺は最初からお前しか見えてない。お前さえいれば、…俺はそれでいいんだよ」


「なぎ、…なぎ…っ、」


「わからねえなら、わからせてやる。身体にも心にも……ぜんぶ」



髪を掻き分けて隠れた耳を見つけると、ちゅっと唇が甘く触れて弾けた。


額の傷、まぶた、頬、そして───…唇。


静かな部屋に響くリップ音が妙にいやらしくて、心地よくて、それは那岐が私へと出してくれているもので。