「…いや、…だ」
ぜんぶ嫌だ。
那岐のことを好きになってしまった私も嫌で、何ひとつ知らされなかったことも嫌。
もし最初から知ってたら那岐のことは好きにならなかったのに。
なんて、そんなはずないって思っちゃうのも嫌だ。
「雅美さんに抱きつかれてたのも、いやだ……」
目の前の瞳は微かに開かれた。
言ってはいけないって分かってるのに、これは私が一番言っちゃだめな台詞なのに。
止まらない、止まりそうにない。
壊れてしまう。
この人が今まで大切に重ねてきたものを、私は壊してしまう───…。
「桜子ちゃんとキスしてたのもいやだ……っ、私には普通に触ってくるところも、嫌だ…っ」
私が抱き付けば、当たり前のように背中に回してくれて。
私には意地悪な顔を見せてくれて。
肉まんを半分こしてくれて、アイスだって1つのスプーンで間接キス。
普通だったらそれを許してくれるような人じゃないから。
だからこそ、私は妹だと言われてるみたいで嫌だ。
「───…いもうと……やだぁ……っ、」
とうとう出てしまったらしい。
妹なんか嫌だ、那岐がお兄ちゃんなんか嫌だ。
赤ちゃんなんか嫌だ。
昔の思い出話は楽しいし幸せだよ。
けどそれが、いまは嫌だ。
「壊れるのも、いやだ、こわしたくない……、那岐との今の関係が壊れるのもいや…っ」
欲しがりだ、私は。
あれも欲しい、これも欲しい。