「那岐に我慢ばかりさせてるの、嫌だ。那岐が私のため私のためって言う度に……苦しい…」


「…俺はいつだってぜんぶ自分のためにやってる」



そんなはずない。

あなたはすっごく優しくて良いお兄ちゃんなんだよ。

それは私がいちばん知ってるもん。


どうして泣いてたの…?
いつも泣いてた。

それはいろいろ苦しかったからじゃないの…?



「もう、触らないで…。こーいうのやめてって…言ったよ私、」



そんなの嘘。

私にしか見せない“特別”だと思っていた顔で接してほしい。


だけどその特別は、私が期待していたものと那岐のものはまったくの別だった。

彼は“きょうだい”の特別で接していたのだ。



「もう、いいから、わたし子供じゃない…っ、赤ちゃんじゃない、放っておけば泣き止むから……っ」


「嫌だ」


「っ…、」



嫌だって、なんで…?

どうして…?なにが嫌なの…?



「俺はぜんぶ自分のためにやってるっつっただろ。…今だって俺がお前に触りたいから触ってんだよ」


「それがだめなんだってば…っ」


「嫌なのか、そんなに俺のことが」



そうだよ、嫌だよ。

嫌で嫌で仕方ない。


ぜんぶ、ぜんぶ嫌だ。



「…絃、」



そんな声する…?

妹に対して、そんなにも切なくて甘い声で名前を呼ぶ…?


もしそれを無意識にしてるとしたら、この男はどれだけ天然たらしなの。

腕は掴まれてるし、近いし。
じっと見つめてくるし、もういろいろ嫌だ。


本当に───…嫌だ。