「今更こんなことしても意味あんのか…?」
それから迷いなく那岐の部屋に運ばれて。
とっくの昔に塞がって痛くもない傷痕へ、消毒液に湿らせたガーゼがトントンと当てられた今。
「まぁ、なにもしねえよりはマシだろ」
「……」
ぜんぜん痛くないのに。
これ、そういうのじゃないのに。
那岐のこういうところ、結構バカだと思う。
けどそれはポロポロと私の涙が未だに止まっていないからこそ、だ。
「まだ痛むか、絃」
お兄ちゃんだ。
もうそう思うことしかできなかった。
兄なのだ。
兄だったのだ、この人は私の。
「なぎ…、おまつりは…?」
「…やめた」
「どうして…?」
「お前と、…行きたかったんだよ本当は」
これだよ、那岐。
その言葉が私をどれだけ傷つけてるのか、この人は何も分かってない。
「頼む、泣き止んでくれ。お前に泣かれると無理だ」
「…子守唄、歌うんだよ那岐。そうすれば…泣き止むから、」
「それは昔だろ。いまは違う、…女の泣き止ませ方なんか知らねえんだよ」
そうやって嬉しい言葉を言ってくれるところが嫌いだ。
平気で女の子扱いしてくれるところも嫌いだ。
「もどっていいよ、じぶんでできる…」
どうして戻らないの。
どうして何も言わないの。
あなたはいつも私に何を期待していて、私からのどんな言葉を待っているの…?