『妹じゃ、ねえんだ。…妹なんかじゃない。俺はいつだって、そうじゃないってどこかで必ず思ってた』



兄として、そして妹だから───そんなものがずっと嫌で嫌で仕方なかったと。


血縁関係はない。

だけど立場的に兄にならざるを得なかった。

周りはみんなそう見て、お兄ちゃん偉いねと言って。



『だから14年空いて…逆に良かった』



その赤ちゃんに私は会いたくなった。


どんな子なんだろうって。

少年の腕にいつも抱かれた赤ちゃんは、なにを見てどんなものをその目に映してきたんだろうって。



「あんなの見ちゃったら……納得しちゃうもの」


「え?てかさっきから独り言おおいね君。そういうのって電波ちゃん、だっけな」


「あーうるさい!いいんです!それで!」


「まぁでも、…ただの大人しいお嬢様なんかよりはずっとずっといいと思うよ?」



さっき、泣いている絃ちゃんにすぐに駆け寄って、当たり前の動きで額にそっと手を重ねた彼は。

昔もそうだったんだろうな、そういうふうに泣いている赤ちゃんの面倒を見ていたんだろうなって思うのと同時に。


兄ではなく、兄なんかではなく。


もうそれは何よりも大切な女の子を前にした、ひとりの男の人にしか見えなかった。



「あ、もしもしお父さん?私…この縁談破棄にしてもいい?ううん、違うよ、───私が振ったの!」



電話越しの父は、娘がお嫁に行く機会が遠退いたというのに。

だからこそホッとしたように笑っていた。