「行かないって言ったよね?ねぇ!!」
「え?なんのこと?」
またとぼけやがってこいつ……。
あのあときっぱり「行かない」って断ったはずなのに、どうしてこいつは行く気満々で浴衣着てるの。
てか似合ってるし普通に。
「絃ちゃんいつも着物だし、せっかくだからこれ着て行こーよ」
「っ!それはだめ…!!」
それは雅美さんから貰ったワンピース。
あれから1度も着ていなくて着る機会がなくて、那岐の前で着たかったけど気づけばこうなってて。
勝手に出しては「えーなんで」なんて、悪びれることなく笑ってる陽太。
「もうっ!ひとりで行ってってば!」
「絃ちゃん絃ちゃん、ちょっと来て」
「え、なに」
「いいからいいから」
ヒヨコの群れを誘導するニワトリのように手招きをして、私を部屋から出させた陽太。
こっちこっちと、どこへ連れてく気なんだろう…。
とりあえず着いて行くと、夕暮れ空に迎えられる。
そしてあまり遠くない場所から聞こえる太鼓の音。
「絃織さーんっ!桜子ちゃーん!行ってらっしゃーい!」
「ちょっ!!」
屋敷の門の前に並ぶ2人の姿を発見。
相変わらずスーツ姿の男と、清楚な花柄のワンピースを纏った女の子がいた。
そんな2人に容赦なく声をかけた陽太に、那岐は舌打ちをしたような気がする。