小さく息を逃しコテージを後にする。帰りは一人きり、助手席(となり)には誰もいない。

美樹を眠らせてくれてよかった。名を呼びながらグチャグチャに泣かれでもしたら、高揚のあまり弟を殺して僕が浚っただろうから。

お母さんからかかってきた電話を利用してごめんね。どのみち父親はこれ以上、僕を娘に近付けさせるつもりはなかったはずなんだ。だから引き離されるタイミングを自分で図った。君には見えない(くさび)を撃ち込んで。

ハンドルを切って信号を右折。インターから高速に乗る。一瞬で過ぎ去る風景なんて目にも入らない。

追い越し車線をひたすらアクセルを踏み込む。緩めない。止まらない。僕が焼き切れても。

もうどこにもやらないよ。今度こそ二人きりになれたら、永遠に枯れない石の花になって僕のそばにいて。

お願いだよ。美樹。



FIN